秋田県における佃煮のはじまりは、ここ潟上市昭和であると言われています。この地で佃煮づくりが始まったのは明治二十年代。日本で琵琶湖に次ぐ広さを誇る汽水湖だった八郎潟は漁業で栄えました。そしてその資源を活かして、保存が効き売りやすい「佃煮」という食文化が地域に根付きました。八郎潟は干拓事業で環境を大きく変えましたが、その食文化は変わることなく地域に根付いています。当店は昭和22年創業。70年以上佃煮をつくり続け、「食卓に咲く、食べる人の笑顔」を思い描きながら、「美味しい佃煮づくり」に挑戦し続けてまいりました。その想いはとぎれることなく受け継がれ、その技術は「より美味しい」を追求し、重ねるように育っています。これが「徳太郎の心」です。
「美味しい」の追求は決して終わることはなく、今よりもっと「美味しい」と思っていただける、佃煮をつくり続けて参ります。 活仕込みは、鮮度が下がりやすいワカサギやシラウオを水揚げしてすぐに炊きあげ、鮮度を閉じ込める製法です。鮮度が生きる製法が徳太郎の味を支えています。
もちろん素材選びもこだわっています。小女子(コウナゴ)類については北海道に作り手の職人が自ら出向いて直接買い付けし、現地の自社工場で半炊き加工を行います。いい魚を目利きすること、これは長年の職人の経験の成せる技の一つ。 また季節や天候による湿度・温度の影響が仕上がりを大きく左右するので、いつも同じつくり方とはいきません。調味液の配合、素材を釜から上げるタイミングなどの絶妙な加減で、徳太郎の佃煮が完成します。 これも長年の職人の経験の成せる技。徳太郎が手づくりにこだわり続ける理由は、この技が決して機械では再現できないこと、そして手づくりでしか込めることができない「想い」があるからです。 当店の人気商品「カリン子わかさぎ」は、油で揚げたわかさぎを炭火で三〜四時間、じっくりと時間をかけて焼き上げたあと、タレで炊いて仕上げています。先代の社長が、この商品を最高のおいしさに仕上げるため試行錯誤を繰り返した結果、炊きこむ前に「炭火で焼く」という工程を取り入れました。炭火焼きをほどこすことで、サクサクとした食感と軽やかな風味が際立ちます。揚げ方、炭の火力、焼き加減、ここにも職人の技が生きています。 炊き上げた佃煮を、扇風機で風を送りながらタレをからませる、という工程も当店ならではのこだわりです。釜から上げては台に広げてからめるという作業を、少量ずつ手作業で丁寧に行います。この「さまし」というひと手間を加えることで、素材にタレが均一にしみこみ、ほどよいねばりとテリが出るのです。湿度や温度など、その日のコンディションを肌で感じ取りながら目と感触で、からめる時間や風量を調整しています。 佃煮の味付けの根幹となる調味料が、醤油です。当店の製法にマッチし素材の特質を最大限に活かせるよう、自家製醤油を使用しています。塩辛さや旨みも、仕込みの時期の状況に合わせ、職人の勘を駆使して調整しています。 当店は、秋田県潟上市昭和の「大久保」という地区にあります。この地名の由来は、“大きくくぼんだ地”。八郎潟に面していて水はけが悪く、耕作に向かない土地でした。江戸の昔から田畑が少ない地域でしたので、人々が八郎潟の魚介類を捕って生計を立てるようになったのは、自然な流れであったろうと思います。
そんな昔の人々が、やがて潟魚を佃煮に加工するようになり、この土地の産業として発展させ、潟の恵みとともに生き、文化や経済の基盤を形成してきました。その営みがあったからこそ、今の私たちの暮らしがあります。 私は佐藤徳太郎商店の四代目として、この地域の歴史をひもといてみました。そして「佃煮」という商品が、いかに多くの人の関わりと、豊かな自然に支えられて完成するものであるか、ということが見えてきました。同時に、私たちが「佃煮をつくる」ということは、想像以上に深い意味があるように思えたのです。 佃煮を仕上げるまでには、当店の職人、注文を受けるスタッフ、梱包するスタッフはもちろん、漁をする人、船や網をメンテナンスする人、タレの原料を作る人など、たくさんの人の存在が不可欠です。そしてこの土地ならではの恵み、文化や伝統。誰かひとり、何かひとつ欠けてもお客様においしさをお届けすることはできません。当店の佃煮を購入してくださるお客様は、目には見えないけれどこういうすべてのことをひっくるめて愛してくださっているのではないか、そう感じるようになりました。 当店の社員を含めこの地で働くひとたちと、佃煮を楽しみにしてくださるお客様、そして地域特有の資源。このかけがえのない財産を、私たちは未来へきちんと受け渡していきたいと思っています。先人たちが連綿とそうしてきたように。 そのために、守り、活かし、育てていかなければならない人、もの、ことがあります。私たちはそれを使命とし、未来に大きな夢を描いて、より一層お客様に喜んでいただける佃煮づくりに取り組んで参ります。
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